東京フォーラム考察(太田由紀夫研究所長より)

東京フォーラムでの社会科実践提案に関しての考察

                       全国構造学習研究会代表 太田由紀夫

 

構造学習論にたった社会科の構造的理解                   

構造学習論は、常に学習対象をソシュール言語学に理論的根拠を置き、築き上げた学習論の理論体系の応用として指導計画を立案している。ゆえに他教科についても国語科と同様に教科を構造的にとらえていく。

(1)構造とは何か

「構造とは何か」について、構造主義思想を踏まえ、3年社会科を例にして私の見解を解説する。

まず構造の第一の特徴は「全体性」を持っている、部分に分割できない、ということである。つまり、学習対象は、自ずとまとまりをもっているということで、例えば、3年の学習対象である地域社会はそこに住む人々とその暮らし(衣食住)に必要な施設、物流等の部分は、ばらばらになっていることはなく密接に関係して存在している、ということである。

次に第二の特徴として、「制御性」である。これは、地域社会は安定を目指す、自己修復性があるということで、地域社会の構成要因としての人と物、環境は、経済状況や環境圧力などにおいてバランスを保つように自己コントロールする機能が働いている。具体的に言えば、住みよい街にしたいという多くの人の意思が働いているということである。

第三は「構造には変換性」がある、ということである。地域社会は変化していっても、まとまりを崩すことはないということである。つまり、江戸から東京に代わっても、髪型、服装、物品や施設等の名称などが変わってもそれぞれの果たす機能や役割は変わらず、人々とその暮らし(衣食住)にかかわりあって存在している。また、激しく変化した場合には、構成要因としての人と物、環境が果たす機能や役割を変化させることもあるが、構成要因同士はそれぞれの関係性において存在することに変わりはない。これを「構造の変換性」としている。

このように構造には三つの特徴があるという構造理論(構造主義)は物の見方・考え方である思考や思想として理論である。まとめると、構造は、一つの要素が他のすべての要素との関係において初めて相互依存的に決定されるものとして与えられる。このような構造の理解においては、構造を構成する要素は、原則として構造を離れた独立性を持たない。が激しく必要な施設、物流等はやはり密接にかかわりあって存在している、ということである。つまり全体とは、要素それぞれは関係性であり、部分である要素の総和(加算)ではない。ということを常に根底に考えていくことが学習論の根幹である。

 

(2)構造学習とはどのようなものか

 具体的に教科指導を進めるにあたっては指導要領にある学習目標を児童が達成するように設計しなければならない。私たち構造学習論においては、児童が達成するとは、「児童自ら、問題を解決する」すなわち主体性を育成することと、とらえている。このことは、児童自身によって対象を構造化する営みであるととらえている。これは、沖山光氏が文章を対象として生み出した学習論の過程において、対象(文章)の認識についての思索に由来している。を学習である。別な言い方をすれば、主体の構造化である。大きく言えば、生き方を教えることである。生きるとは主体が構造化していくこと、全てに構造思考を働かせることである。

この点の解説には、創始者の沖山光の原点となっているソシュールの言語学(構造主義言語学と位置付けられている)とピアジェの認知発達論を根拠しなければならないので、他に譲として、結論的に言えば、学習とは自己認識を深めていくことである。そして認識とは「構造の認識」なのである。少し具体化してみると、認識は全体をまずとらえ、部分を理解していく。つまり、認識対象を構造としてみる(理解)表現においても、表現すべき全体があり、それを伝えるために部分である要素を関係的に示していく。このような思考こそが人間本来の思考であるとして打ち立てたのが構造学習論である。

児童の学習において、この構造的思考を働かせていくことを目的としている。言い換えれば、問題解決学習とは問題(対象)の構造を解き明かす学習なのである。

 

(3)社会科の指導要領の目標についての把握(教材の構造化)

 

指導要領における社会科の教科の目標について、以下のように構造化してみる。

教科の目標

 

社会的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,グローバル化する国際社会を主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を育成する。(以下(1)、(2)、(3)に育成すべき基礎の内容である)

 

育成すべき資質・能力の基礎1・・・理解すべき知識内容(学習対象)

・3年 身近な地域や市区町村の地理的環境,地域の安全を守るための諸活動や地域の産業と消費生活の様子,地域の様子の移り変わりについて,人々の生活との関連を理解する

・4年 自分たちの都道府県の地理的環境の特色,地域の人々の健康と生活環境を支える働きや自然災害から地域の安全を守るための諸活動,地域の伝統と文化や地域の発展に尽くした先人の働きなどについて,人々の生活との関連を理解する

・5年 我が国の国土の地理的環境の特色や産業の現状,社会の情報化と産業の関わりについて,国民生活との関連を理解する。

6年 我が国の政治の考え方と仕組みや働き,国家及び社会の発展に大きな働きをした先人の業績や優れた文化遺産,我が国と関係の深い国の生活やグローバル化する国際社会における我が国の役割を理解する

育成すべき資質・能力の基礎2・・・技能の内容であり学習活動そのもの

育成すべき資質・能力の基礎3・・・学びに向かう力

ここでは、以上の二つについて、実践に役立つように観点別評価基準の形式で整理してみた。

技能(学習活動になる)

・34年では、調査活動、地図帳、および各種の具体的資料を通して,必要な情報を調べ、まとめる

・56年では、調査活動、地図帳、地球儀,統計などの各種の基礎的資料を通して必要な情報を調べまとめる。

思考・判断・表現(見方・考え方の具体化であり、問題解決学習に働く思考内容である) 

社会的事象の特色や相互の関連,意味を多角的に考えたり,社会に見られる課題を把握して,その解決に向けて社会への関わり方を選択・判断し,考えたことや選択・判断したことを適切に表現できる

学びに向かう力

・社会的事象について,よりよい社会を考え主体的に問題解決しようとする態度を持つ

・多角的な思考による理解を通して,地域社会に対する誇りと愛情や地域の一員としての自覚を持つ

・我が国の国土と歴史に対する愛情や将来を担う国民としての自覚を持つ

・世界の国々の人々と共に生きていくことの大切さを自覚する

 

(4)東京フォーラムでの5年社会科の指導計画の提案についての見解

 構造学習は、(3)のように構造化された教材を与え、児童が構造を発見していく、という立場はとらない。(*ブル-ナーの教育の過程)児童にとって教材は、見えない全体を自らの力で見えるようにしていく構造化すべき対象(問題)である。(*ピアジェの認知発達理論)それゆえに児童に構造的思考を身に付けさせておく必要がある。そのために、私たちはそれを「思考トレーニング」という思考操作の習熟を図っている。

今回の提案は、まだ、十分とは言えないが、この「思考トレーニング」で身に付けた思考方法(能力)をどのように生かして学習していくのか、社会科を例として提案したものである。

 

なお、今回の改訂において全ての校種、教科を問わずにすべての学習活動を「問題解決学習」としている。その根拠は、目標にある「~な見方・考え方を働かせ」という表現である。従前においては理数科教科にはこの表現があり、問題解決思考の習熟が学習のねらいに明確に位置づいていた。

 

 では、社会科における「見方・考え方を働かせ」とは、何かといえば、見方は児童が置かれた環境(社会)を「広がり」という視点でとらえる(身近な地域、国、世界へと)こと。そして、考え方とは解決に必須な「関係思考」であると考えている。